① はじめに:矛盾しているようで、実は自然な行動
「どうせ行動しないなら、なぜわざわざFP相談に来るの?」
「現状を変えるつもりがないなら、相談する意味はあるの?」
FPとして相談を受けていると、そんな疑問を感じる人もいるかもしれません。ですが、この行動には**人間の心理的な“揺れ動き”**が隠れています。
人は、変化が怖い一方で、「このままで本当に大丈夫かな?」という不安も抱えています。
FP相談とは、変化を決意した行動ではなく、その前段階― “不安の確認作業” なのです。
② 現状維持バイアスとは?
現状維持バイアスとは、現状を変えるよりも、今のままの方が安全だと感じてしまう心理のことです。
- 「損をしたくない」
 - 「やったことがないことに手を出すのは怖い」
 - 「今の生活を変えるのは面倒」
 
これは多くの人に共通する自然な感覚です。
では、なぜそんな心理を持ちながらも、FP相談という行動を起こすのでしょうか?
③ それでもFP相談に来る理由
✅ 1. 不安だけは確認したいから
「今の貯金ペースで足りるのか?」「教育費や老後ってどれくらい必要?」
こうした不安は日常生活では答えが出ません。
行動は怖くても、 “状況だけは知っておきたい” という気持ちが人を相談へ向かわせます。
✅ 2. とりあえず聞くだけならリスクがない
FP相談は、契約でも投資でもなく、“話を聞く”だけの低リスクな行動。
「話だけなら」「無料だし」「断れるし」――だから動けるのです。
現状を変える勇気はないけれど、情報を集めることならできるという感覚です。
✅ 3. 自分の判断に自信がない
お金のことは、正解がわからないし、失敗したら怖い。
だから、誰かに背中を押してほしい/現状を客観的に見てほしいという理由で相談する人も多くいます。
✅ 4. 実は「現状のままでいい」と言ってほしいこともある
意外かもしれませんが、
「今のままでも大丈夫ですよ」と言ってほしくて相談に来る人もいます。
FP相談は、安心の根拠を探す場所でもあるのです。
✅ 5. 無料というハードルの低さ
無料なら、お金も失わないし、やめることもできる。
つまり、**“変化を選ばなくてもいい選択肢を残しながら動ける”**のです。
④ ではなぜ、相談しても現状を変えないのか?
FPが提案をしても、実際の行動に移せない人が多いのはなぜでしょう?
その背景には、認知と行動の間にあるギャップがあります。
● 行動に移せない主な理由
| 心理 | 内容 | 
|---|---|
| ✅ 選択肢が多すぎて麻痺 | どの金融機関?どの商品?と悩むうちに動けなくなる | 
| ✅ 損失回避バイアス | 「損したらどうしよう」という恐怖が、利益の期待よりも強く働く | 
| ✅ 今すぐ困っていない | 将来の不安より、「今日の生活を変えるのが嫌」な気持ちが勝つ | 
| ✅ 習慣化の壁 | つみたてNISAや家計改善には“日々の行動”が必要で、面倒に感じる | 
● よくあるリアルな例
- 相談で老後資金が足りないと知った。でも、その後何もしていない。
 - つみたてNISAを始めようと思って3年経った。証券口座すら開けていない。
 
こうした行動の停滞も、決して“やる気がない”からではなく、人間の自然な反応と言えます。
⑤ FP相談はゴールではなく「スタート地点」
FP相談とは、何かを決める場所ではなく、自分の不安を言葉にできる場所です。
大切なのは、相談後に 「最初の一歩」を具体化できるかどうか。
FPの役割は、次のように整理できます。
- 不安を否定せず、言語化を手伝う
 - 解決策を小さなステップに分けて示す
 - 現状維持のメリットも、変化のメリットも、両方きちんと説明する
 
⑥ おわりに:人は「変わりたい」より「安心したい」
現状維持バイアスがあるのに、なぜ人はFP相談に来るのか。
その答えはシンプルです。
人は、変わりたいから相談するのではない。安心したいから相談する。
相談とは、変化を始める行動ではなく、安心へ近づく一歩目。
そしてその一歩を“未来につながる行動”に変えるかどうかは、FPの関わり方次第でもあると思います。
  
  
  
  

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